更新日:2021/03/17
令和2年の年金制度改正法「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」について、公的年金の改正点のポイントをみておきましょう。
1 社会保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大
社会保険の適用拡大の意義については、「被用者にふさわしい保障の実現」、「働き方や雇用の選択を歪めない制度の構築」、「社会保障の機能強化」とされ、事業主に雇われて働いている労働者に対しては、できるだけ等しく社会保険(厚生年金保険・健康保険)を適用していこうとするものです。
特に、パートタイマーなど短時間労働者の保障を厚くするということに重点が置かれ、これまでも改正が行われてきました。現在は、週20時間以上30時間未満で働く短時間労働者が、一定要件のもと厚生年金に加入するのは、従業員501人以上の企業となっています。なお、500人以下の企業も労使合意に基づいて任意で適用拡大することは可能となっています。
今回の改正法では、企業規模要件について、2022年10月に100人超の企業、2024年10月には50人超の企業まで段階的に引き下げられます。厚生年金保険料の負担は労使折半なので、適用拡大により、事業主の負担は増加することになりますが、従業員個人は、社会保険に加入することで多くのメリットがあります。老後には老齢基礎年金に加えて報酬比例の老齢厚生年金を受け取ることができ、万一のリスクに備えて、厚生年金には障害厚生年金や遺族厚生年金といった保障もあります。健康保険にも加入することになるので、病気や怪我、出産時に仕事を休まなければならないときの所得保障として傷病手当金や出産手当金といった独自の給付もあります。
この他に、個人事業所の厚生年金の適用について対象業種の一部見直しが行われました。改正法により、これまで非適用業種であった弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業について、個人事業所でも常時5人以上の従業員を使用していれば、適用事業所になります(2022年10月)。
2 受給開始時期の選択肢の拡大
公的年金の受給開始は原則65歳です。しかし、年金の繰上げ制度や繰下げ制度を活用すれば、個人ごとに60歳から70歳までの間で受給開始時期を選択することができます。改正法では、2022年4月から、年金の受給開始時期に関して、現行の60歳~70歳から60歳~75歳へと選択肢の幅が拡大されます。つまり、就労状況等に合わせて個人が年金の受給開始時期をより幅広く選択できるよう、年金の繰下げ受給の上限年齢を「70歳」から「75歳」へ拡大されることになります。なお、1月当たりの繰下げ増額率は0.7%と現行と同じです。一方、繰上げ減額率は0.4%(現行0.5%)に変更される予定です。
公的年金は、終身年金であることから、長生きリスクに備えたものであるといえます。健康に気を配りながら、可能であれば、少しでも長い期間働き、公的年金は繰下げを活用して給付に厚みを持たせるなどの方法も考えられます。繰下げすると待期期間中に、加給年金や振替加算なども支給されないということなどがデメリットとしてよく挙げられますが、今後は夫婦ともに厚生年金に加入する世帯が増えたり、生年月日などからもそのような加算がつかない人が増えていきます。繰下げ制度についてはより正確な知識をもって判断することが必要になるでしょう。
3 在職老齢年金の見直しと在職定時改定の導入
在職老齢年金については、65歳以降の在職老齢年金(高在老)の見直しは見送られ、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金(低在老)について、2022年4月から、基準額を現行の28万円から高在老と同じ47万円(2020年度額)の基準に緩和されます。ただし、特別支給の老齢厚生年金が支給される1961年4月1日以前生まれ(女性は1966年4月1日以前生まれ)の人に限られます。
また、改正法には「在職定時改定」という仕組みの導入が盛り込まれました。現行の制度では、65歳からの老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合は、退職時か70歳到達時に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定しています。
今回の改正法では、65歳以上の在職者については、在職中であっても、毎年1回年金額の改定を行い10月分から反映させる在職定時改定が2022年4月から導入されます。これは65歳以降も働く人にとっては、就労期間が延びたことによる年金額の増加を年単位で実感しやすくなるでしょう。この他にも、幾つかの改正事項が予定されています。施行時期を含めて確認しておくようにしましょう。